AIの話題を耳にするたびに、「うちも何か始めたほうがいいのだろうか」と考える社長は少なくありません。
とはいえ、具体的に何から手をつけるべきかとなると、途端に足が止まってしまう——そんな状況が多く見られます。
生成AIの導入は、特別な知識よりも“最初の順番”が大切です。大きく構えず、まず「どの業務で困っているか」を見つめることから始まります。
本記事では、経営者が自ら理解し、社内に安心して広げていくための“最初の5ステップ”を実務目線で整理します。焦らず、確実に一歩を進めましょう。
①まず“AIにできること”より“業務で困っていること”を見る

「AIに何ができるか」より「どの作業が面倒か」を探す
AI導入の話になると多くの方が「どんなことができるのか」を調べるところから始めます。
しかし、実際の現場で役立つのは“AIができること”ではなく、“人が面倒に感じている作業”を見つける力です。
社長や事務担当者が毎回同じ説明をしている場面、メール文面を考えるのに時間がかかる場面など、そうした“小さな負担”こそがAI活用の入口になります。
「何ができるか」を考える前に、「どこで時間を取られているか」「どこが毎回モヤモヤするか」を洗い出すこと。それが最初の一歩です。
業務全体を変える必要はなく、ひとつでも改善できれば十分な成果になります。
“業務の棚卸し”より“日々の引っかかり”に目を向ける
AI導入の相談で「業務の棚卸しをしないと」と考える方は多いですが、実際には大掛かりな整理をしなくても構いません。
大切なのは、現場で「いつも気になるけれど放置している小さな不便」を拾うことです。
会議の議事録や報告書の文面、見積もりの定型文など、毎回似た内容を手で作っている業務があればメモしておきましょう。後でAIに試してみるだけでも導入効果は実感しやすくなります。
AIは“業務の棚卸し結果”を待たなくても動かせます。むしろ、日々の小さな引っかかりに反応して試すほうが、現場に自然に根づきます。
全部を任せるより“一部だけ手伝ってもらう”考え方
AI導入を検討する際に「すべてAIに任せる」と考えると、難易度が一気に上がります。
最初のうちは、“AIに手伝ってもらう”という軽い発想が大切です。人が主で、AIは補助。これが最も現実的で続けやすい形です。
たとえば、文章の“最初の案”をAIに作ってもらい、その後人が修正する。社内資料の要約をAIにお願いして、最終確認だけを人が行う——そんな分担で十分に効果があります。
AIを「社員のように育てる」つもりで付き合うと、導入が自然に定着します。最初から完璧を求める必要はありません。
まずは1つだけ試して、社内に小さな変化を起こす
導入を成功させる会社ほど最初に試す対象を一つに絞っています。「1つの業務で“やってみる”」だけで十分なのです。
成果が出れば社員の興味が自然に広がり、社内全体の理解も進みます。
初めての成果は小さくても構いません。「議事録の整理が早くなった」「メールの文面が整った」など、日常の改善こそAI導入の醍醐味です。
社内での共有も「こんなふうに助かった」という言葉ベースで十分。そこから次の一歩が見えてきます。
AI導入は“戦略”よりも“実感”が先です。まずは1つ、身近な作業から試してみてください。それが確かなスタートになります。
②ChatGPTは“社員に配る”より“社長が自分で使う”がいい入口になる

社内展開の前に「使いどころ」をつかむ
ChatGPTを導入する際、「まず社員に配ろう」と考える方は多いですが、最初は社長ご自身が触れてみるのが一番の近道です。AIを使う目的や“向き・不向き”を知るには、体験するのが早いからです。
実際に使ってみると、「これは経営判断の整理に使える」「この作業には向かない」といった感覚がつかめます。使いどころをつかむことで、社内に導入を説明するときの言葉が自然に出てくるようになります。
AIを「配る」より「自分で使う」ほうが、結果的に社内理解を早めるのです。トップが実感を持って話すことほど、社員に安心を与えるものはありません。
社員の反応を気にするより、自分の言葉で伝える
AI導入を社内で話すと、「また新しいことが始まるのか」「難しそう」といった反応が出ることがあります。そんなときに重要なのが、社長自身の言葉で“なぜ試したのか”を語ることです。
「実際に使ってみたら思ったより簡単だった」「自分の仕事の整理に役立った」——そうした一言が、社員にとって何より説得力を持ちます。専門用語や仕組みの説明よりも、経営者の体験談がチームの背中を押します。
最初から全員に理解を求めなくても大丈夫です。まずは「自分がどう感じたか」を共有することが、社内への第一歩になります。
まずは「短時間・小規模」で使ってみる
試す際は業務の合間に数分だけでも構いません。ChatGPTに「この文をやわらかく言い換えて」や「社内報の案を作って」など、身近な依頼をしてみましょう。
大切なのは“完璧に使いこなすこと”より、“気づきを得ること”です。
短時間で触れるだけでも、「こういう時に便利だ」「思っていたより自然な文章が出てくる」などの発見があります。その経験が、次にどの業務へ展開できるかを考えるヒントになります。
AI導入は勉強ではなく体験です。小さな成功体験を積み重ねることで、社内の空気が少しずつ変わっていきます。まずは10分、机の上で試してみてください。
③“使っていいの?”を防ぐには、社内ルールを3つだけ決めておく

禁止でも自由でもなく、“相談”から始めるルールが効果的
AI導入時に「禁止にするか、自由にするか」で迷う会社は多いものです。しかし、そのどちらでもない中間の形——“相談から始めるルール”がもっとも定着しやすいと感じます。
社員が「これをAIに入力しても大丈夫ですか?」と気軽に確認できる環境をつくること。これが最初のルールづくりです。相談できる場があるだけで、不要なトラブルを大きく減らせます。
禁止すれば活用の芽がしぼみ、自由にすれば不安が広がります。小さな相談文化を起点にすれば、そのバランスを自然に保てます。
ルールの目的は「管理」ではなく「安心の土台づくり」
AIの社内利用ルールというと、どうしても“管理”を目的に考えてしまいがちです。ですが、本来の目的はそこではありません。
社員が安心して使えるようにするための枠をつくることが、社内ルールの役割です。
たとえば「顧客名は入力しない」「社外秘の情報は避ける」など、3〜5行の短いガイドラインで十分です。運用を固めすぎず、むしろ“考えながら整えていく”ほうが現実的です。
ルールが安心の拠り所になれば「何となく怖いから触らない」という空気を変えられます。社員が自ら考えて活用する土壌ができていきます。
最初は“使い方”より“使うときの約束”が大事
AIツールを導入するとき、多くの企業が「操作方法を覚えさせよう」とします。
しかし、本当に重要なのは“使い方”より“使うときの約束”です。
どんな内容を入力してよいか、誰に相談すればいいか——この2点が明確なら、使い方は自然に覚えます。
逆に、約束が曖昧なまま広げると、社員が慎重になりすぎて活用が進みません。「試すときは誰かと一緒に見る」「入力前に一呼吸おく」など、簡単な合言葉のようなルールが効果的です。
約束を決めることで、ミスや誤入力のリスクを最小限に抑えながら、安心して実践できます。
ルールは3つで十分。多すぎると動きにくくなります
社内ルールは多ければ安全というものではありません。むしろ、多すぎると社員が迷い、動きが止まります。
最初は「守るべき3つ」だけを決めるのが現実的です。
例として、①機密情報は入力しない、②生成結果をそのまま使わない、③困ったら相談する——この3つで十分です。実際、これだけで大半のリスクは防げます。
ルールは時間とともに見直せばよいものです。まずはシンプルに始め、社員が「これなら動ける」と感じられる状態をつくること。それが、AI導入を定着させる第一歩になります。
④ツールの比較より、“順番を守って小さく始める”ほうが失敗しない

「無料で試す」より「目的に合う有料プランから」
「まずは無料で試してみよう」と考えるのは自然なことですが、AI導入では必ずしも最適とは限りません。
無料版では機能が制限されていたり、商用利用が制約されている場合もあります。
「目的に合う有料プラン」を最初から使うほうが、結果的に迷いが少なく、学びも早いのです。
特にChatGPTなどでは、ビジネス用途に耐える安定性やデータ管理の明確さが求められます。最初の段階で有料版を使っておくことで、導入後に「結局使えなかった」というやり直しを防げます。
もちろん無理のない範囲で構いません。試すという行動に“投資の意識”を少し加えるだけで、学びの質は大きく変わります。
ツールの選定は、“使ってみてから”でも間に合う
AIツールは数えきれないほどありますが、導入初期に完璧な比較表を作る必要はありません。最初に触れたツールから学び、そこから次を考えるほうが現実的です。
どんなツールも実際に使ってみると印象が変わります。
「操作が分かりやすい」「レスポンスが速い」「社内で共有しやすい」など、体験からしか分からない部分が多いのです。比較よりも、体験を重ねながら判断していく流れが失敗を防ぎます。
ツールの正解は企業ごとに異なります。まずは1つ選び、1か月ほど使ってみてください。その中で、自社に合う形が自然に見えてきます。
先に決めるのは、“どこで使ってみたいか”
AI導入の初期段階では、ツールよりも“どの業務で試すか”を先に決めるほうが重要です。ツールは手段であり、課題を解く場所を決めなければ効果は測れません。
「会議の要約をしてみたい」「日報の文面を整えたい」など、具体的な使いどころを先に決めておくことで、選ぶツールの方向も自然に定まります。
逆に、ツールを先に選ぶと「結局どこで使えばいいのか分からない」と迷いがちです。
目的と使いどころを先に決める——この順番を守るだけで、導入の成功率は格段に上がります。
小さく始めて、月単位で見直す運用のすすめ
AI導入は一度決めたら終わりではありません。小さく始めて、1か月ごとに振り返るサイクルを回すことが継続のコツです。
月ごとに「どの作業で役立ったか」「社員の反応はどうか」を確認し、必要に応じて調整します。AIは進化が速いため細やかな見直しが効果的です。
変化を恐れず、少しずつ更新していけば、自然と社内に定着していきます。
AI導入の本質はツール選びより“運用のリズム”にあります。焦らず小さく、確実に積み重ねていくことが最終的な成功につながります。
⑤“AIとの対話”で経営者自身の考えを整理する

経営者が言語化できない悩みをAIが“鏡”のように映す
生成AIの特徴のひとつは、こちらの言葉をそのまま受け止めて整理してくれる点にあります。
経営者は日々多くの判断を抱えていますが、その中には「うまく言葉にできない考え」や「人にはまだ話せない悩み」も少なくありません。
AIに相談するように書き出すことで、自分の思考が整理され、頭の中が客観的に見えてきます。まるで鏡に映すように心の中のテーマが形になります。
AIは答えを出す相手ではなく、「考えを映してくれる相棒」として使うと良いでしょう。
そうして整理された言葉が、次の経営判断を支えるヒントになります。
“話しかける”ことで、自分の考えが整理されていく
ChatGPTに向かって文章を書くとき、多くの方が「話しているうちに整理できた」と感じます。それは、人は説明することで思考が整うからです。
AIはその説明相手として、24時間いつでも話を聞いてくれる存在です。
「今、何に迷っているのか」「どう伝えれば社員に理解してもらえるか」など、漠然とした思いを打ち込むだけでも構いません。AIが問い返してくれることで、考えが一段深まることがあります。
この“言葉にしてみる”時間は、経営の方向を見つめ直す良い習慣になります。
悩みの言語化が、業務改善の第一歩になる
経営上の悩みは放置すると「感覚的なストレス」として蓄積します。
ですが、AIに書き出すことで「どこに課題があるのか」「何を優先すべきか」が見えるようになります。言葉にすることが、改善の起点になるのです。
たとえば、「社員が忙しそう」と思うだけでなく、「なぜ忙しいのか」「どの業務が重なっているのか」といった問いに変わります。AIはその思考整理を手伝い、曖昧だった悩みを具体的なアクションに変えるサポートをしてくれます。
経営課題の多くは、言葉にすれば半分は解けます。AIはその“きっかけ”をくれる存在です。
AIとの対話を「相談メモ」として使う進め方
AIで出た回答を“正解”と捉える必要はありません。「相談メモ」として残しておくことに意味があります。
日を改めて読み返すと、当時の迷いが客観的に見え、成長の軌跡を感じられることもあります。
おすすめは1つのテーマにつき1つのスレッドを残す方法です。「営業の進め方」「会議の効率化」などテーマごとにメモを分けると、後から振り返りやすくなります。
AIとのやりとりを“対話の記録”として活かすことで、経営者自身の考え方や価値観が少しずつ整理されていきます。これは、AI時代の新しい経営ノートの形かもしれません。
まとめ:AI導入の第一歩は、“困りごと”を言葉にすることから
生成AIを導入するとき、最初に必要なのは特別な知識でも高価なツールでもありません。自社の“困りごと”を素直に言葉にすること。そこからすべてが動き始めます。
業務の中で気になる小さな不便、毎日の中で感じる違和感。それらを言葉にした瞬間に、AIが手伝える範囲が見えてきます。順番を守って小さく始め、社長自身が体験してみること。それが、社内での理解と信頼につながっていきます。
AI導入は“正解を探す旅”ではなく、“課題を見つける旅”です。焦らずに一歩ずつ、できるところから試してみてください。
今日、ひとつだけでも「AIに手伝ってもらいたい作業」を書き出してみましょう。そこからが、本当のスタートです。
もし「どこから始めたらいいか」を整理したいと感じたら、CreamCodeの経営者向け講座や導入相談をご活用ください。内容や進め方は、貴社の状況に合わせて一緒に考えていきます。

